研究概要 |
近年,知能障害などの中枢神経症状をもつ患者の中からピルビン酸脱水素酵素のα-サブユニット(E1α)欠損による高乳酸血症が多く見出されている。E1αはX染色体上に局在し,今までに報告されたE1α欠損症女児例はすべて正常E1α遺伝子と変異E1α遺伝子とをもつヘテロ接合体である。したがって,E1α欠損女児例では診断に用いる組織あるいは細胞で変異遺伝子が必ずしも発現していないので,酵素活性測定では患者を見逃す可能性がある。見逃しをなくするためには遺伝子レベルでの診断が必要である。そこで本研究では一本鎖高次構造多型を利用してE1α欠損症の遺伝子診断法(PCR-SSCP法)の開発を試みた。 正常女性10名からえたリンパ球ではE1α遺伝子のエクソン1から11までのPCRで増幅された単鎖DNAフラグメントは電気泳動上,全て同じ移動度を示した。しかし,エクソン3に点変異が見出されているE1α欠損症1男児例ではエクソン3の単鎖DNAフラグメントの電気泳動度が正常女性とは異なっていた。さらにE1α欠損症女児例ではエクソン3の単鎖DNAフラグメントは正常と同じ移動度を示すものと移動度が異なるものとが認められ,この症例はエクソン3上に変異をもつ遺伝子と正常遺伝子とをもつヘテロ接合体と考えられた。ピルビン酸脱水素酵素複合体活性が低下していた培養リンパ芽球様細胞のCDNAの塩基配列を決定したところ,エクソン3上にある塩基番号265のグアニンがアデニンに変異している変異遺伝子と正常遺伝子とをもつヘテロ接合体であることが確認された。以上の結果からPCR-SSCP法はE1αの変異遺伝子のスクリーニング法として有用であることが明らかになった。
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