HTLV-1(human T-lymphotropic virus type-1)は、成人T細胞白血病のみならず、数種の関連疾患の原因となっていることが注目されている。いずれも予後不良の疾患であり、感染経路を絶つことにより、これらの発症を防ぐことが可能である。我々は約8年間の研究により、HTL-V-1の主たる感染経路は、感染した母親の母乳中の感染細胞の児への移行によることをつきとめた。しかし母乳栄養を続けた場合、母児感染率は約30%であり70%は感染していない。一律に人工栄養を勧めることは効率的でない。感染している母親でも母乳哺育がどこまで可能であるかを検索することを目的に研究を始めた。 長崎県では全出生妊婦の約90%にあたる16000人がHTLV-1抗体スクリーニングを受けており、その3.9%がキャリアの判定を受けている。長崎大学医学部小児科では追跡病院や児科として年間約100名の新たな児の追跡を行っている。現在まで36カ月間の追跡調査を終了した児は267名で、このうち7名(2.6%)が抗体陽性となっている。18カ月以上の児について人工栄養、授乳期間6カ月未満の混合栄養児(短期母乳哺育群)、授乳期間6カ月以上の混合栄養児と母乳栄養児を加えた郡(長期母乳哺育群)に分けて検討した。それぞれの抗体陽性率は人工栄養児では2.4%、短期母乳哺育群では14.3%長期母乳哺育群では16.8%で短期母乳哺育群と長期母乳哺育群の間には有意の差は認められなかった。長期母乳哺育児は短期母乳哺育児にくらべ感染率が高いという報告もあるが、これまでのデータでは統計学的有意差はなく、現状では生後3〜6カ月までは母乳を与えても感染の危検性は低いとはいいがたい。
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