成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-1はATLだけでなく、脊髄痙性麻痺やぶどう膜炎等を発症させる。いずれも予後不良の疾患であり、治療法がない現在感染経路を絶つことが唯一の方法である。我々はこのウイルスの主要感染経路が母乳によることを明らかにした。しかし母乳栄養の感染率は30%であり70%は感染していない。そこで母乳栄養がどこまで可能であるかを検索した。 母乳感染を規定するものとして、【.encircled1.】母側の要因として母乳中に分泌される感染細胞の量が考えられる。短期培養によるキャリア末梢T細胞のHTLV-1抗原発現を検査したところ、発現のあった母親からの感染率が有意に高かった。【.encircled2.】児側の要因として移行抗体として母由来の中和抗体、授乳期間が考えられる。HTLV-1中和抗体については抗体価とは必ずしも相関していなかった。授乳期間については、混合栄養の方が母乳栄養よりも感染率が低いことから、期間が長ければ授乳量即ち感染細胞の量が多く摂取されるため感染が起こりやすくなると考えられた。 長崎大学医学部小児科で、現在36カ月間の追跡調査を終了した人工栄養児は310名で、このうち10名(3.2%)が感染している。18カ月以上の児について人工栄養児、授乳期間6カ月未満の混合栄養児(短期母乳群)、授乳期間6カ月以上の混合栄養児と母乳栄養児を加えた群(長期母乳群)に分けて感染率を検討したところ、人工栄養群3.0%、短期母乳群10.1%、長期母乳群16.3%であった。統計学的には人工栄養群と短期母乳群間には有意差が認められたが、短期母乳群と長期母乳群間には有意差は認められなかった。経験的なことであるが、授乳期間が短いほど感染をおこしにくいという印象があり、されに例数を追加し統計学的に検討すれば安全な授乳期間が設定できるかもしれない。 人工栄養群の感染率3.0%については、現在までの検査では子宮内感染ではないようである。
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