成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるHTLV-1はATLのみならず、脊髄痙性麻痺やブドウ膜炎等の関連疾患を引き起こすことが注目されている。これらの疾患はいずれも予後不良であり、現在根治治療法がなく、感染経路を絶つことが唯一の方法である。我々はこのウイルスの主なる感染経路が母乳によることを明らかにした。しかし母乳栄養の感染率は約30%であり70%は感染していない。一律に人工栄養を勧めるのは効率的でない。キャリアの母親でもどれ位の期間母乳栄養が可能であるかを検索することを目的として研究した。 長崎大学小児科では年間約100人のキャリア母親から出生した児を追跡している。36カ月では人工栄養児267名中7名(2.6%)が抗体陽性であった。人工栄養にしても2.6%感染している。 18カ月以上の児の抗体陽性率を栄養方法別にみると、人工栄養児で634名中17名(2.7%)が陽性であったのに対し、混合栄養児では169名中13名(7.7%)、母乳栄養児では135名中29名(21.5%)陽性であった。 18カ月以上の児について、授乳期間6カ月未満の混合栄養児(短期母乳保育群)、6カ月以上(長期母乳保育群)と人工栄養児群に分けて抗体陽性率を検討した。人工栄養群では2.7%、短期群では10.4%、長期群で16.2%であった。即ち人工栄養群と短期母乳群、長期母乳群の間には有意の差はみられなかった。以上より、現状では短期母乳栄養を推賞することは時期尚早のようである。
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