研究概要 |
1)成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-I)キャリア妊婦より出生した児のHTLV-I感染を血清学的に検討した。1986年1月から1994年6月までに追跡児は955名となり,そのうち1歳以上で栄養法,母乳哺育期間の判明している357名を対象とした。追跡児全体のHTLV-I抗体陽性率は5.6%(20/357)であった。このうち母乳栄養児は6.7%(5/75)であり,人工乳栄養児の5.3%(15/282)と感染率に有意差はなかった。次に母乳栄養児の感染率を母乳哺育期間で検討した。6か月までの短期母乳哺育児の感染率は3.2%(2/63)であったのに対し,7か月以上母乳を哺育した長期母乳群は25.0%(3/12)と有意に高く人工乳哺育児とも有意差を認めた。短期母乳哺育児は人工乳栄養児と感染率に差はなかった。短期母乳栄養児のうちさらに3か月までで母乳をやめた群は1.9%(1/53)と感染率はさらに低かった。 2)追跡児の同胞例でのretrospective studyでは,2歳以上の247名のうちHTLV-I抗体陽性者は10.1%(25/247)であり,このうち人工乳栄養児が6.3%(2/32)に対し母乳栄養児は10.7%(23/215)と高かったが統計学的には差はなかった。しかしやはり7か月以上の長期母乳哺育児は14.2%(20/141)と陽性率が高く,6か月までの短期母乳哺育児の4.1%(3/74)と有意差がみられた。 以上より,短期母乳哺育はHTLV-Iの母子感染のリスクとはならないことが示唆され,母親が希望すれば6か月までの母乳哺育は推奨しても構わないと考えられた。
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