研究概要 |
有効なRespiratory syncytial virus (RSV)のワクチン株の選定のためには長期に渡るRSV流行株の調査が不可欠である.今回,RSV感染児よりのウイルス分離を行い,得られたウイルス株のサブグループをモノクローナル抗体を用いて決定した.札幌市では1980年から1992年までの12シ-ズンで186株,小樽市では1987年から1992年までの5シ-ズンで115株のRSV株が分離された.札幌市におけるRSVサブグループはA株が112株(60.2%),B株が74株(39.8%)とA株が優位であった.また,各シ-ズン毎の優位流行株はA株からB株,B株からA株に交替していく傾向が明かであった.小樽市の5シ-ズンの検討では,115株中,A株が48株(41.7%),B株が67株(58.3%)とB株が優位であった.優位流行株の交替も認められた.性別,年齢と感染RSVサブグループとの間には特に有意な関係を認めなかった.臨床診断はMufsonらの診断基準に基づいて決定したが,臨床診断とRSVサブグループとの間にも特に有意な関係を認めることはできなかった. NPS中のサブグループ特異的なIgA,IgG抗体,中和抗体について検索した. A,B株感染のいずれかの場合も,急性期の鼻汁中には抗RSV活性は検出されないが,回復期には全例に両株に対する抗体活性が検出された.その反応は,感染サブグループに対するものが他株に対してより高く,そのことはA,B両株の場合とも統計学的に有意であり,株特異的な局所免疫反応を確認できた.この株特異的な反応の主体はG蛋白に対するものであった. 母体由来と考えられる急性期の血清中のIgG抗体は,抗F抗体反応が主であり,その高さと,児の回復期の鼻汁中の抗F IgA抗体との間には有意な逆相関の関係が認められた.この事は母体由来抗体が,ウイルス蛋白特異的に,児の局所IgA抗体反応反応を抑制する事を示しており,興味深い所見である.このことはまたワクチンの開発,治療としてのrグロブリン製剤の使用にあたり示唆に富む所見と考えられた.
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