神経芽腫(以下NB)は、神経冠より発生する腫瘍で、小児固形腫瘍の中で最も頻度が高い。臨床経過中分化と成熟がおこり、腫瘍の自然退縮がみられる。しかし分化・成熟と退縮の機序は、よくわかっていない。 一方神経冠は、Le Douarinらのニワトリとウズラのキメラを用いた発生学の研究により、末梢神経、Schwann細胞、melanocyteとectomesenchyme(外胚葉性中胚葉)に成長・分化する。このうちectomesenchymeは、大血管の平滑筋細胞などに分化する。 神経冠由来の悪性腫瘍であるNBは、in vitroの分化誘導で神経細胞、Schwann様細胞に分化する。またtyrosinase活性陽性より、melanocyteの特性を有するNB株の存在も知られている。しかし平滑筋細胞を含むectomesenchym細胞への分化はよく知られていない。さらに1983年Rossらは、ある種のNB株は、2つの形態学的に異なるNとS細胞成分から成ることを報告した。以来S細胞の特性が研究されてきたがその本態は未だ不明である。 今回我々は、S細胞を含む3種のNB親株から8種のクローン株を分離した。骨格蛋白に対するモノクローナル抗体の解析から、親とクローン株のS細胞は、α-sm-1(α-smoothmuscle actin)が陽性、またKP-N-SIとSI9s株ではDEU-10(desmin)が陽性であることを示した。また2次元Western blot法でα-sm-1とDEU-10の存在、さらにNorthern blot法でα-smooth muscle actin mRNAの発現を証明した。 α-smooth muscle actinは平滑筋のみに存在し、またdesminは、骨格筋、心筋と血管平滑筋など筋肉細胞にのみ存在する。以上よりNBの平滑筋細胞、神経細胞とSchwann細胞に分化する、またNBが神経冠の幹細胞から発生する可能性が示された。
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