研究課題
神経成長因子(以下NGFと略す)および、その受容体(NGFR)から成るシグナル伝達系は発達期の神経細胞の分化・成長に重要な役割を果たす。今回、我々は小児固型腫瘍中、最も頻度が高く、かつ神経系細胞の分化・増殖異常に基づくと考えられる脳腫瘍に着目し、NGF/NGFRカスケードを利用した.脳腫瘍に対する遺伝子治療の可能性を探ることを目的に実験を行った。平成4年度は、内因性の機能的NGF/NGFRカスケードを有しないラット中枢神経系神経芽細胞腫株B104内ヘ、高親和性NGFR蛋白をコードするプロトオンコジーンtrk発現ベクターをトランスフェクションし、得られたトランスフェクタントB104-trkの生物学的動態を解析した。結果:(1)ラットB104細胞およびトランスフエクタントB104‐trkは.ともに内因性の低親和性NGFRを発現していた。 (2)B104‐trkは.モノクローナル抗体によるFACS解析から、ほぼ100%の細胞が.その表面上にTRKを発現していることが確認された。 (3)トランスフェクタントの NGF短期間処置は immediate early responseとしてのS‐fosの発現を引き起こした。(4)NGF長期投与はトランスフェクタントをlate response gemeとしての神経特異的遺伝子の発現を伴う形態学的分化へと導いた。以上の結果はプロトオンコジーンtrkのコードする蛋白が内因性の低親和性NGF受容体とともに機能的NGF/NGFRカスケードの構築に関与することを意味し、さらに神経細胞内に人為的に構築されたNGF/NGFRカスケードがinvitroにおいて脳腫瘍を分化誘導しうることを明らかにするものである。
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