研究概要 |
神経成長因子(NGF)およびその受容体(NGFR)から成るカスケード(NGF/NGFRカスケード)は神経細胞の分化・成長・維持に必須の栄養因子である。我々は未分化神経細胞に由来する小児期脳腫瘍の神経栄養因子による新たなる分化誘導療法の開発を目指してきた。本年度は神経細胞表面上に人為的に構築したNGF受容体がNGF以外の神経栄養因子に対しても反応し、未分化神経細胞を分化誘導するか否かを検討した。 1.内因性のNGFRを全く発現しないヒト由来の未分化神経細胞株HTLA230細胞へのtrkAcDNAのトランスフェクションは細胞表面上に機能的NGFRを構築した。得られたトランスフェクタントのin vitro及びin vivoでのNGF投与は未分化神経細胞を最終分化段階へと誘導した。 2.構築されたtrkA受容体はNGFのみならず、ニューロトロフィン-3(NT-3)およびニューロトロフィン-4/5(NT-4)に対しても活性化された。 3.トランスフェクタントにおいては、NGF/NGFRカスケードのシグナル伝達路中間体として知られているPLC-γ1,ERK-1,ERK-2はNGF,NT-3,NT4/5いずれの投与後にも等しく活性化された。 4.trkAトランスフェクタントのNGF,NT-3,NT-4/5短時間処置はいずれの投与後においてもEgr-1遺伝子の一過性の発現増加を認めた。 5.トランスフェクタントへのNGF,NT-3,NT-4/5の長時間投与は形態学的分化を誘導した。 6.上記の各種神経栄養因子に対するtrkAトランスフェクタントの反応はBDNF投与後には全く認められなかった。 これらの結果は、未分化神経細胞に導入され、人為的に構築されたtrkA受容体はNGF,NT-3,NT4/5投与に反応して未分化神経細胞を分化誘導することを意味する。
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