未熟心臓のアシドーシスへの耐性の機序を細胞内pH調節の観点から検討した。胎仔家突より心臓を摘出し、クレブス液で潅流した。PH7.4の正常液から20%CO_2で飽和したpH6.8のアシドーシス液に変えると左心室内圧は一過性に低下したが、10分後にはコントロールの値にもどり、胎仔心臓では有意の収縮力低下は認めなかった。これに対し、成熟心臓ではコントロールの50%に低下した。未熟心臓でNa-H交換の阻害剤であるEIPAを加えると、アシドーシス時の左室内圧はコントロールの70%に低下した。成熟心臓でもEIPA投与によりアシドーシス時と左室内圧は低下しコントロールの40%となった。次に(Na)HCO^-_3-(Na)C1^-交換の阻害剤であるSITSを加えると、胎仔心臓ではアシドーシス時左室内圧がコントロールの40%となり、成熟心臓では34%となり、年令差は消失した。即ちHCO^-_3-C1^-交換がアシドーシスへの耐性となってことを示唆した。 次に胎仔心臓から単一細胞をとりだし、塩化アンモニウム投与により細胞内アシドーシスを作整した。塩化アンモニウムにより作整した細胞内アシドーシスの程度には、胎仔心臓、成熟心筋細胞で差はなかった。しかし、Na-H交換阻害剤EIPAの存在下では、胎仔ではアシドーシスから回復したのに対し成熟心筋細胞では回復はみられなかった。EIPAと、SITS(HCO^-_3-C1^-交換阻害剤)の存在下では胎仔、成熟獣心ともにアシドーシスからの回復はみられなかった。 以上の結果は、未熟心筋ではHCO^-_3-C1^-交換が活性であり、成熟心臓では有意のHCO^-_3-C1^-交換活性はみられないことを示す。未熟心臓ではNa-H交換に加えHCO^-_3-C1^-交換が存在するためにアシドーシスに際し細胞内pHの変動をより少なく保つことができ、その為に収縮能の低下もより少なく保つことができると考えられる。
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