従来治療法がなかった各種の先天性代謝異常症に対して、骨髄移植が有効なのではないかとし、我国も含めて全世界で800例以上の各種遺伝性疾患にこの治療が試みられている。このうち、リソゾーム病に対する骨髄移植の効果として、内臓器への蓄積や関節症状などの臨床的な異常の改善と共に、一部の症例では中枢神経症状の進行が阻止ないしは改善することが報告されている。この様な移植の効果についての種々の問題を充分に検討する手段として、動物モデルへの骨髄移値が有用である。この動物モデルでもヒトと同様に、中枢神経系に対する骨髄移植の効果は疾患によって異なっている。我々はNiemann‐Pickマウスを用いて骨髄移値を行い、移植効果の基礎的なメカニズムの解明を行っている。先ずNiemann‐Pickマウスの骨髄細胞を正常マウスに移植してドナー由来の骨髄幹細胞がマクロファージとして各組織に生着、増殖することを組織学的に証明した。次に、雌のNiemann‐Pickマウスに対して正常雄マウスの骨髄細胞を移植し、中枢神経系を含めた組織での代謝の正常化についてマウスY染色体特異プロープを用い、PCR法を用いて検討した。移植後の組織、特に肝、脾、大脳、小脳を中心に組織DNAを抽出後、PCR法によってマウスY染色体特異プロープ(SryおよびZfy遺伝子の合成オリゴヌクレオチド)を用いてSryおよびZfy遺伝子の増幅産物を検出した。以上の結果、骨髄移植後は、ドナー由来の細胞が脳を含めた各組織で生着、増殖し、移植効果を発揮すると云う事が直接証明出来たと考えられる。
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