アトピー性皮膚炎の亜急性、慢性および痒疹型皮疹を電顕的に検索した。これらのいずれの皮膚病変においても末梢神経内にしばしば肥満細胞の侵入する像が認められた。また、末梢神経内肥満細胞はしばしば脱顆粒しており、同部では末梢神経束の浮腫が認められた。次に、アトピー性皮膚炎皮疹部において、神経伝達物質サブスタンスPの分布を調べた。サブスタンスP陽性神経線維は、表皮内、真皮乳頭層に分布しており、皮膚末梢神経束の中にも部分的に認められた。末梢神経束内部では脱顆粒をしている肥満細胞に接するサブスタンスP陽性の神経線維も認められた。この成績よりアトピー性皮膚炎皮疹部における肥満細胞の神経束内脱顆粒現象の少なくとも一部はサブスタンスPを介して生じたものであると考えられる。一方、アトピー性皮膚炎皮疹部の末梢神経束内には、電顕的検索により単球が分布することを明らかにした。免疫組織学的検索により神経内浸潤細胞の中にはIgE陽性細胞も認められた。これらの成績から、アトピー性皮膚炎の皮膚末梢神経束内は、免疫学的に隔離された領域ではないと考えられる。したがって本症の末梢神経内肥満細胞の脱顆粒現象の一部がIgE抗体を介した免疫反応により生ずる可能性もあると考えられる。末梢神経束内への肥満細胞の侵入現象はアトピー性皮膚炎皮疹部および結節性痒疹の皮膚病変部において最もよく認められた。しかし、アトピー性皮膚炎患者の正常皮膚や尋常性乾癬皮疹部においても頻度は少ないながらも肥満細胞の末梢神経内侵入現象が認められた。これらの成績から、肥満細胞の末梢神経内侵入現象はアトピー性皮膚炎に特異的な現象ではないと考えられる。
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