ビタミンD_3の表皮ケラチノサイトの細胞周期に対する影響を検討したところ、ビタミンD_3は主としてG1/G0期で成長停止を誘導し、一部M期でも停止させることが明らかになった。また、分化のマーカーの一つであるインボルクリンに対する抗体とフローサイトメトリーを用いてインボルクリン陽性細胞の比率を算定し、ビタミンD_3の表皮ケラチノサイトの分化に対する影響を調べたところ、10^<-6>Mで著明にインボルクリン陽性細胞を増加させ、分化を誘導させた。Retinoblastoma gene product(pRB)は、元来癌抑制遺伝子として同定されたが、その後細胞周期において、G1/G0期からS期への移行を制御することにより、細胞増殖を制御していることが明らかになってきた。即ち、非リン酸化pRBがリン酸化されることにより、G1/G0期からS期への移行がはじまる。そこで、ビタミンD_3の表皮ケラチノサイトの増殖抑制機構にpRBのリン酸化が関与しているかどうかを検討した。Western blot法にてpRBを同定し、分子量の相違により、リン酸化、非リン酸化を識別し、デンシトメーターを用いて、定量化をおこなった。その結果、10^<-6>MのビタミンD_3を培養表皮ケラチノサイトの上清に添加すると、時間の経過とともに、非リン酸化pRBが増加し、0時間の23%から48時間後には58%に達し、非リン酸化pRBの増加がビタミンD_3が表皮ケラチノサイトの増殖抑制に密接に関係していることが明らかになった。また、SV40でtransformさせたケラチノサイトと正常ケラチノサイトに対するビタミンD_3の増殖抑制作用を比較したところ、10^<-6>MのビタミンD_3は正常表皮ケラチノサイトの増殖を95%以上抑制したが、SV40でtransformさせたケラチノサイトは約50%しか抑制しなかった。SV40でtransformさせたケラチノサイトでは、large T抗原がpRBと結合し、TGF-βの増殖抑制作用が消失する事が報告されており、正常ケラチノサイトに対するビタミンD_3の増殖抑制作用に一部TGF-βが関与することを示すものと考えられる。
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