研究概要 |
細胞は,原核細胞生物から真核細胞生物に至るまで,高温などの環境変化に反応して熱ショック蛋白(Heat shock protein,HSP)と呼ばれる遺伝的に良く保存された一群の蛋白質を発現する.細菌は体内に侵入すると生体の防御機構による攻撃に曝され,そのストレス下で高い抗原性を発揮するHSPを産生し,HSPに対する免疫は感染防御に働く.一方体細胞あるいは白血球等の宿主細胞も感染ストレス下でHSPを産生し,したがってHSPに対する免疫の一部は宿主側にも向けられる. 申請者は,昨年度の本課題の研究で,ヒトらい菌由来HSP65(野間口博子作製)に対する抗体価をELISA法を用い,IgG,IgM,IgAの抗体各クラス別に種々の皮膚疾患で測定した.その結果掌蹠膿疱症,乾癬,蕁麻疹,帯状疱疹の各患者で高率に抗HSP65抗体価の上昇を確認し,報告した. 今回われわれは掌蹠膿疱症患者を,それぞれ慢性扁桃炎あるいは歯周病変による病巣感染の明らかな群と,このような病巣を持たない群とに分類し,抗HSP65抗体価の測定を行い,その値を群間比較した.その結果,抗HSP65IgGのELISA法による492nmにおける吸光度の値で,病巣感染のある掌蹠膿疱症(n=7)で0.230±0.065(平均値±標準偏差),病巣感染の無い掌蹠膿疱症患者(n=12)の値0.139±0.066と明らかな(p<0.01)差を示した.乾癬で患者を急性滴状型(n=4)と局面型(n=12)あるいは膿疱型(n=6)の各群間で比較すると,それぞれ0.174±0.032,0.101±0.053および0.087±0.025を示し,しばしば細菌感染を契機として発症する急性滴状型の乾癬における明らかな(p:0.0165,局面型との比較,p=0.001,膿疱型との比較)差を見いだした. したがって,病巣感染による,種々の白血球遊走の亢進をともなう種々の皮膚疾患の発症機序にせまるひとつの方向性が打出された.
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