研究概要 |
皮膚科領域には,一見無関係と思われる限局した慢性微生物感染病巣が体内遠隔部位におけるアレルギー性炎症性病変の原因になる例が見られるが,その病態生理学的機構に関しては不明の点が多かった 近年免疫遺伝学的に良く保存された熱ショック蛋白(Heat shock protein,HSP)が細菌にとって高い抗原性を発揮する一方,宿主細胞も感染ストレス下でHSPを産生し,宿主側のHSPに対する免疫機構が注目されるようになった そこで申請者らは本研究を開始し,病巣感染の機構解明の糸口としようとした 平成4年度の本研究で申請者は,種々の皮膚疾患で,自己免疫性疾患との関係が注目されている抗ヒトらい菌由来HSP65抗体価をELISA法で測定した 総計約200人のうち,正常群と比較し,乾癬,掌蹠膿疱症,蕁麻疹,帯状疱疹の各患者で高率に抗HSP65抗体価の上昇を確認したが,上昇が予測されたアナフィラクトイド紫斑ではそれほどの異常を認めなかった 平成5年度に申請者は,掌蹠膿疱症患者を慢性扁桃炎あるいは歯周病変による病巣感染の明らかな群と,このような病巣を持たない群とに分類し,抗HSP65抗体価の測定を行い,その値を群間比較した その結果,抗HSP65 IgGのELISA法による492nmにおける吸光度の値で,病巣感染のある掌蹠膿疱症(n=7)で0.230±0.065(平均値±標準偏差),病巣感染の無い掌蹠膿疱症患者(n=12)の値0.139±0.066と明らかな(p<0.01)差を示した 乾癬で,患者を急性滴状型(n=4)と局面型(n=12)あるいは膿疱型(n=6)の各群間比較すると,それぞれ0.174±0.032,0.101±0.053および0.087±0.025を示し,しばしば細菌感染を契機として発症する急性滴状型の乾癬における明らかな(局面型とp=0.0165,膿疱型とp=0.001)差を見いだした したがって,種々の白血球遊走の亢進をともなう種々の皮膚疾患の発症に対する病巣感染の意義にせまるためのひとつの方向性が打出された
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