高エネルギー電子線およびX線のエネルギーの生物学的作用を末梢リンパ球染色体に生ずる染色体異常を分析することにより研究した。また、照射時におけるヨード造影剤の添加や低酸素状態が染色体異常誘発に及ぼす影響についても調べ、X線照射により誘発される異常頻度と比較した。14MeVY及び16MeV の電子線を照射した場合に生じた染色体異常の線量効果関係は^<60>Co・gamma線のそれと比較して殆ど差を認めなかった。また、ヨード造影剤を添加した状態で照射しても線量増強効果は著しくなく、20%程度であった。照射時に低酸素状態にすると、染色体異常の生成効率はほぼ0.65と低下することが認められ、染色体異常誘発現象でみても酸素効果の存在が確認された。一方、X線による染色体異常生成効率はそのエネルギーにより著しい変化を示した。X線からの2次電子のエネルギー・スペクトルを参考に分析すると、35kV程度では生じる2次電子のLETが高いためもあり、gamma線による場合よりも高まった線量効果関係が得られたが、造影剤による線量増強効果は殆どなかった。250kV・X線照射ではその染色体異常の生成効率はgamma線とほぼ同等であったが、ヨード造影剤の存在により顕著な線量増強効果が認められた。特に、後方散乱を生じる物体が存在すると、その増強効果は非常に高まった。このような2次電子のエネルギー・スペクトルの分析から、染色体異常誘発には電子の飛程が大きな役割を果たしていることが判明した。更に、エネルギーの低い電子は飛程が短く細胞核まで届かないことから、ヨード造影剤を加えることによる物理的吸収線量の増加と染色体異常頻度の変化を比べると、後者は常に前者よりも小さいことが示唆された。
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