放射線医療領域において、電子線は表在性あるいは浅在性の腫瘍の治療に用いられ重要な役割を果しているが、X線照射の際にも種々なエネルギーの電子が放出されており、それらの細胞に対する影響を知ることは放射線の生物作用を理解する上に大切なことである。今回は、この電子線の線量分布について、末梢リンパ球の染色体に生じた異常頻度を用いて分析するのみでなく、種々のエネルギーのX線から放出される2次電子の染色体異常生成に及ぼす影響について調べた、線量分布の実験では全血をプラスチック試験管に入れ、ファントム中にて照射した。14MeV及び16MeVの高エネルギー電子線照射の場合、これらの染色体異常誘発は^<60>Co-γ線のそれと比較し、ほぼ同等の線量効果関係を示した。しかし、染色体異常頻度で示された深部線量分布は物理学的測定による線量分布と比較すると、そのピーク位置はやや深部へずれる傾向が示唆された。また、照射時血液にヨード造影剤をヨードの含有量で3.5%添加した場合、深部線量分布のピーク位置における照射ではヨード添加の有無にかかわらず、誘発される染色体異常頻度に差を認めなかった。ただし、ピーク位置よりも浅い部位ではヨード添加による異常頻度誘発の増加傾向が認められた。一方、X線照射時に発生する2次電子のエネルギーは非常に小さく、その飛程は短いが、X線のエネルギーに衣存することが知られている。生物作用でみると2次電子の飛程が増すとともに細胞核が傷害を受ける割合も高くなる。ヨード造影剤のX線照射時添加により2次電子はさらに増し、染色体異常生成や殺細胞効果は高まった。しかし、X線照射時における造影剤による生物学的効果の増強作用は照射された媒質の平均吸収線量の増加よりも常に小さく、これは細胞核まで到達しえない位いエネルギーの2次電子の関与によるものであることがコンピュータ・シミュレーションを用いた分析で判明した。
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