肝組織内に高度の銅が沈着する先天性代謝異常をもつLong-Evans with a cinnamon coat color ラット(以下LEC rat)と硫酸銅をニトリノ三酢酸を用いてキレートすることによって急性毒性を軽減した銅液を腹腔内に連日投与または隔日投与し肝組織内銅を著明に上昇させたウイスター系ラット(以下Wis rat)の肝実質のCT値を測定した。またCT撮像直後に屠殺し肝標本を作成し、肝組織内銅量、各種組織染色を所見と比較検討した。原子吸光法によって測定された組織内銅濃度とCT値には有意の相関は認められず、肝組織内オルセイン陽性顆粒と肝CT値に強い相関が認められた。またほぼ同定度の肝組織内銅濃度を持つLEC ratと銅負荷Wis ratとの肝CT値の比較では後者のそれが有意に高く、オルセイン染色所見ではLEC rat肝細胞に陽性顆粒はほとんど認められず、Wis rat肝には大量に認められた。以上より組織内金属としての銅は、生理的および病的に生体内に存在し得る濃度では、CT値にはほとんど影響を与えることがないこと、及びオルセイン染色で陽性顆粒として観察されるライソゾーン内に凝集した銅結合蛋白(メタロチオネイン)が局所的電子密度上昇の原因となりCT値を上昇させることが考察された。LEC ratとWis ratとの比較から、細胞質中の可溶性メタロチオネインは大量に存在したとしても肝CT値に影響を与えないことも推定された。以上の結果は、理論式のみで推定されていた肝組織内銅のCT値に与える効果と合致するものであった。本実験は、肝組織内金属銅と銅結合蛋白のCT値に与える影響を動物にて分離して考察した最初の実験と思われ、一部の肝細胞癌診断の上で重要な所見と考えられる周囲肝に比較して高吸収値を示す例の原因あるいはヒトの銅代謝異常疾患として代表的な疾患であるWilson病でみられる病期による様々な肝CT所見の解釈の上で重要な知見が得られたと考えられる。
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