研究概要 |
放射線照射によって腫瘍の抗原性が変化するか否かは腫瘍照射法の検討や集学的治療の可否など放射線治療学と根本的に関わりを持つ問題である。近年免疫系では各抗原に対応した特異的なT細胞クローンが存在し、それぞれは特定のTCRの可変部位遺伝子(Vα,Vβ)を持つことが明らかにされた。したがってこの研究では放射線による腫瘍抗原性の変化を感作リンパ球のT細胞受容体(TCR)遺伝子レパトリーにより検出することを試みた。放射線により腫瘍抗原性が変化する可能性の一つは、腫瘍抗原をコードする遺伝子への変異の導入或いはheat shock protein等の特定遺伝子の活性化である。他の一つは生体の照射細胞(抗原)に対する抗原認識の変化(増強・抑制)である。非照射並びに照射腫瘍細胞(C3H/He由来のMH134腫瘍)に対する宿主の免疫反応を解析すると後者のメカニズムによる抗腫瘍免疫の(放射線による)増強が検出された。即ち生細胞と照射細胞(10Gy,in vitro)が1:4の比率からなる腫瘍細胞の免疫或いは腫瘍へのin vivo 20Gy照射により腫瘍傷害活性が有意に増強された。TNR-MH134に対する抗体産生からこれは腫瘍細胞に対するヘルパーT細胞の分化が促進される結果であることが判明した。免疫動物の感作リンパ球をクローン化し或いは直接放射線抵抗性の特性によって選別した後、flow cytometryとRT-PCR法でTcR Vβ遺伝子レパトリーを解析した。MH134腫瘍に対応したT細胞はVβ6を使用していること、腫瘍照射によってもVβレパトリーは変化しないことが確かめられた。今後更にTcR Vα鎖の解析を加えて、最終的にこの腫瘍に対応するT細胞のTcRのclonalityとその照射による変化の有無を明らかにする必要がある。ヒト腫瘍の放射線による抗原性の変化の解析は、必要な症例数が得られなかったため未だ目的を達していない。今後症例を増やして解析を続ける予定にしている。
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