抗精神病薬の抗ドーパミン作用、ことにD3、D4、D5受容体に対する作用の検討を進めている。分子生物学的手法を用いての検索を計画していたが、現時点で完成したのはD4受容体のmRNAのプライマーのみであるので、まず米国サンド社よりD4受容体に高い親和性をもつ非定型抗精神病薬clozapineの[3H]標識体(以下[3H]CLZ)の提供を受け、これにより脳内各部位でその結合特性の検討を開始した。 ラット脳より大脳皮質、辺緑系、線条体、海馬の4部位を切出し、膜標品を作成して[3H]CLZの結合実験を行った。25℃のインキュベーション温度では、[3H]CLZの結合はいずれの部位においても約10分でプラトーに達し、1時間後まで結合は持続した。[3H]CLZの結合がプラントーに達した後、高濃度の非標識CLZを加えると、[3H]CLZの結合は急速に解離し、その結合が可逆的であることが確認された。算出された解離定数は各部位でほとんど差がなく、また高親和性、低親和性の2部位よりなることが示された。次に10μMのCLZにより非特異的結合を規定し、各部位における[3H]CLZの特異的結合の薬理学的特性の予備的検討を行った。ムスカリン性コリン拮抗薬(atropine)、ヒスタミンH1拮抗薬(pyrilamine)、ドーパミンD2拮抗薬(sulpiride)、セロトニン2拮抗薬(ketanserin)、アルファ1アドレナリン拮抗薬(prazosine)、アルファ2アドレナリン拮抗薬(yohimbin)による[3H]CLZ結合阻害実験を行った。いずれの部位においても[3H]CLZ結合の約10〜50%はatropineに対して高い親和性を示した。線条体における[3H]CLZ結合のうちsulpirideの親和性が高いのは約20%程度に過ぎなかった。ヒスタミンH1部位の混入がめだったのは辺緑系であるが、特異的結合の20〜30%であり、他の部位では10%前後であった。
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