1)ニオイの選択、ニオイ刺激票の開発・品質評価:(1)在宅の非痴呆性老人110人を対象に、知っているニオイ、なつかしいニオイ、好きなニオイなどについて質問紙調査を行い、その結果、バラ、くちなし、みかん、香水、汗、墨汁、たばこ、乳、糞便の9種のニオイが選定された。(2)これらのニオイを香料専門家の協力を得て、化学物質や濃度を考慮して、マイクロカプセル化した。これを縦5.5cm、横9.0cmの紙片の中央に印刷し、ニオイ刺激票とした。(3)ニオイ刺激票の品質を検討するためニオイ質の均一性、妥当性およびニオイ質の維持・変化(3カ月)、カプセル破壊後の時間的変化に関する実験を行った。その結果、問題のあった汗のニオイを除いて、8種のニオイ刺激票を用いて、以下の調査実験を行った。2)調査実験:実験はニオイ刺激票作製後1〜2カ月後の間に行った。対象は119人の在宅老人(知的機能正常)で男性33人(62-88歳、平均73.2±6.0歳)、女性86人(60-89歳、平均72.4±5.9歳)である。一対一の面接法により、無臭の刺激票を含む9種のニオイ刺激票をクリップで擦り、ニオイを嗅いだ後に以下の質問項目に答えた。 1.ニオイの親近性、2.ニオイの強度、快適度、嗜好性、3.懐しさ、4.想起内容、5.同定されたニオイの名称である。その結果、(1)「懐かしい」と答えたものは「みかん」で53.5%、次いで「香水」で41.7%を占めていた。「たばこ」、「乳」、「墨汁」では31%〜36%であった。(2)「みかん」、「香水」では20〜40%の者が過去のイメージを想起し、他の6種のニオイよりも喚起力が強いことが明らかになった。3)今後の研究計画:なお、研究の一環として、研究期間中に、ハワイの日系一世、帰米、二世の高齢者(知的機能正常)60人を対象に、米国で開発されたニオイ刺激票であるUPSITとわれわれのニオイ刺激票との比較調査を行い、結果の解析中である。
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