長期増強発現においてタンパク質リン酸化反応が重要である。長期増強発現のためにはキナーゼが常時アクティブな状態(パーシスタントキナーゼ)である必要があるという仮説がある。この説に対して我々は2つのアプローチをとった。パーシスタントキナーゼとしては、カルモジュリンキナーゼIIの自己リン酸化の結果生ずるCa^<2+>非依存型カルモジュリンキナーゼII、Cキナーゼがカルパインで切断されて生ずるキナーゼMである可能性が挙げられる。 1.我々は、まず第一の可能性を調べる目的で、Thr^<286>自己リン酸化型カルモジュリンキナーがIIを特異的に認識する抗体を作成した。培養海馬細胞をNMDA刺激すると、カルモジュリンキナーゼIIの自己リン酸化が亢進することがこの抗体で確められた。キンドリングラットの海馬においても自己リン酸化が亢進することが明らかになった。現在、長期増強におけるカルモジュリンキナーゼIIの自己リン酸化レベルについて調査中である。 2.次に長期増強成立後、海馬をホモゲナイズし、上清と沈渣に分けて、それぞれのリン酸化活性を測定した。その結果、上清でCa^<2+>非依存性のCキナーゼ活性の亢進を検出した。それと同時に沈渣中のCキナーゼ活性の限定分解の亢進も認めた。この2つの現象は互いに相関していた。また、別の実験で、Cキナーゼの分解にカルパインが関わっていることを明らかにした。我々は、長期増強の発現・維持のためにCキナーゼがカルパインで限定分解を受けてCa^<2+>非依存性フラグメントを細胞質中に放出していると考え、さらに実験を進行中である。
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