研究課題
一般研究(C)
精神分裂病(分裂病)の症状発現に関与する脳内の神経回路を明らかにする目的で、分裂病様症状発現薬であるmethamphetamine(MAP),cocaineあるいはphencyclidine(PCP)を投与したラットにおいて、神経活動の変化を反映すると考えられる最初期遺伝子c-fosの発現パターンや、ドーパミン(DA)代謝の変化を検討した。成熟期では、MAP急性投与によってc-Fos様免疫反応陽性細胞が脳の広い範囲にわたって出現し、この作用はDA受容体アンタゴニストの前処置によって抑制された。幼若期(生後8日以降)にMAPを投与すると、大脳旧皮質や皮質下の組織におけるc-Fos陽性細胞の分布パターンは成熟期と類似しているが、大脳新皮質においては著しい差異が認められた。この幼若期のパターンは、分裂病の再発の一モデルと考えられる逆耐性現象が形成され始める生後3週頃に成熟期のパターンに近づいた。大脳皮質におけるMAP誘導性c-fos発現の発達による変化は、ノーザンブロット分析によっても確認された。MAP急性投与のc-Fos陽性細胞の分布パターンは、幼若期、成熟期双方ともに、cocaineやDA受容体アゴニストであるapomorphineと類似していた。PCP投与後のc-Fos陽性細胞の分布も発達に伴って変化したが、MAP、cocaineとは異なり、NMDA受容体アンタゴニストdizocilpineと同様のパターンを示した。また、成熟期のラットにおけるPCP投与後の細胞外液中DA量の増加は、前頭葉で著しく線条体では軽度であり、神経インパルスフローに依存性であったのに対し、MAPによる増加は双方の脳部位で著しく、インパルスフローには依存しなかった。以上のように、MAPおよびcocaineは、PCPとは異なる脳内神経活動の変化を引き起こすことがわかり、これらの薬物による臨床症状の違いを反映すると考えられた。また、c-fos遺伝子発現の生後発達による変化は、薬物による分裂病様症状あるいは逆耐性現象の発現が、大脳新皮質の神経回路の発達と関係する可能性を示唆している。一方、抗PCPおよび抗MAP作用を示すD-セリンが、ラットばかりでなくヒトやマウスにおいても内在性物質であることや、脳選択的でNMDA受容体と類似した分布を示すことを明らかにした。D-セリンはNMDA受容体のグリシン部位に選択的なアゴニストとして作用することから、これらの所見は、D-セリンが哺乳類の脳でグリシン部位の内在性リガンドとして機能し、神経精神機能の調節にも関与する可能性を示唆している。
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