研究概要 |
src遺伝子は、脳組織内のみで、通常のc-src mRNAの他にalternative splicing を利用して神経特異的src mRNA(c-srcN1,c-srcN2)を転写する。これらの神経特異的src遺伝子は脳の分化に伴い発現比率が変化する事から、神経組織の分化に重要な役割を果していると考えられている。神経芽腫細胞株を用いて神経特異的src mRNAの発現を解析したところ、分化能を持つ神経芽腫は、神経特異的src mRNAを発現しており、薬剤による分化に伴いc-srcN2 mRNAの発現比率が上昇する事が明らかになった。この結果、実際の神経芽腫臨床例の予後にいかに反映されるかを、1988年から1992年までに治療した神経芽腫28列を対象にS1 nuclease protection assayで解析した。その結果、マススクリーニングで発見された1才未満神経芽腫症例で、全例にc-srcN1,c-srcN2 mRNAの強い発現を認めた。一方、1才以上IV期神経芽腫症例では神経特異的src mRNAの発現は低レベルか、又は同定不能であった。さらに、三種類のsrc mRNAの総量に対するスプライシングの比率を求め、特にc-srcN2 mRNAの発現比率に注目した。c-srcN2 mRNAの発現比率と予後との関連を分析すると、発現比率10%を境に大きく予後が異なる事が明かになった。c-srcN2 mRNAの発現比率が10%以下の10症例はいずれも進行神経芽腫であり、このうちの7例が死亡または腫瘍ありの状態であった。逆に、発現比率が11%以上の症例は年齢・病期に関かわらず全例が腫瘍なしで生存していた。c-srcN2の活性化はN-myc遺伝子の増幅と逆相関の関係にあり、さらに、N-myc非増幅型の高悪性度症例の予後をも的確に示しており、神経芽腫患児の予後を予見する有用なbiologiccal markerになりうる事が示された。
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