ラット全肝冷却潅流モデルによる阻血後のエネルギー基質の酸化は、燐核磁気共鳴スペクトロスコピーで検討したβ-ATP/Piからみると、肝エネルギーバランスが阻血前の60%に回復した時点より再開するという平成4年度の実験結果をふまえ、平成5年度は兎を用いて阻血肝における脂肪酸の酸化に関する実験を行った.その結果、10分間の全肝阻血により動脈血ケトン体比は低下したが血流再開後60分で安定し以後plateauとなった.また阻血により肝でのVLDLの生成および脂肪酸のβ酸化の指標となるケトン体生成は抑制された.肝での脂肪酸の酸化をさらに検討するために、trioctanoinを静脈内に投与して、経時的に総ケトン体を測定したところ、肝阻血により中性脂肪の加水分解ならびに加水分解産物である遊離脂肪酸の肝への取り込みは抑制されるが、動脈血ケトン体比が0.7前後に安定する血流再開後60分以後にtrioctanoinを投与するとこの抑制はみられなかった.また脂肪酸のβ酸化は動脈血のケトン体比が0.7に安定した頃より正常に復することが明らかとなった.以上の結果より、肝阻血をともなった肝臓手術後の患者に経静脈栄養を行うに当たっては、動脈血ケトン体比を測定しながら、この値が0.7に安定した時点より脂肪乳剤の投与が可能であることが示唆された.
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