〔A〕チエルノブイリ原発事故後の小児状腺癌:1)ベラル-シとウクライナの事故後の小児甲状腺癌における低分化型(充実性無構造な病巣)の頻度は72.2%(57/79)と高かった。術後の充分な追跡調査が必要である。2)未分化癌は小児にはなかったが、1990年、19才の若さで未分化癌で死亡したキエフ(男性)の1例がみつかった。3)現地で提供され広島に持ち帰ったパラフイン包埋組織標本を用いて癌遺伝子を調べた。RET癌遺伝子は7例で解析でき、RT-PCR法で解析された再配列によるRET癌遺伝子の活性化は4例、57.1%という高率に認められた。この活性化はI-131汚染により誘発されたチエルノブイリ小児甲状腺癌の特徴的変化であると推察される。又癌抑制遺伝子P53は12例で解析できたが、この遺伝子のヘテロ接合性の消失は1例のみにみられ、これは乳頭癌の低分化型病巣で観察され興味深い。〔B〕甲状腺乳頭癌の分化度別の核DNA解析(FACS-can):広島大学に存在されている甲状腺癌のパラフイン包埋組織を用い、以下の結論を得た。G_2M期の%は高分化型(7例、平均年令69.7±6.3才)で5.8±2.2%だったが、低分化型(4例70.8±7.2才)では9.7±1.5%、未分化癌(6例70.3±5.7才)では9.0±4.2%と高値だった。一方:DNAパターンのaneuploidyの頻度は高分化型1例、14.3%、低分化型1例、25.0%と低いが、未分化癌では4例、66.6%と高かった。悪性度の高い未分化癌の術前診断の一つに、核DNA解析は有用と思われる。〔C〕甲状腺未分化癌の局所持続動注化学療法の有用性:これ迄に未分化癌2例、扁平上皮癌3例、低分化癌2例の計7例で頚横動脈内に留置カテーテルを挿入して、局所に繰り返し抗癌剤を動注したが、これ迄の所、はっきした延命効果をみていない。〔D〕広島の原爆被爆者の未分化癌:広島県腫瘍登録委員会にある甲状腺癌の疫学調査結果は、これから発表していく予定である。
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