研究概要 |
本研究は、myc系がん遺伝子の発現制御の機構について解析を行ったものである。ヒトmyc系がん遺伝子産物(Mycタンパク)はc-Myc,N-Myc,L-Mycの3種が知られている。いずれのMycタンパクもMaxとヘテロダイマーを形成する事によりDNAの特定部位に結合し細胞増殖を制御していると考えられているが、その標的遺伝子やmyc遺伝子の発現制御機構については研究があまり進んでいない。また、myc系遺伝子は特定腫瘍で増幅が起こっていることが知られており、神経芽腫ではN-myc遺伝子増幅度と悪性度との間に相関があることから、腫瘍マーカーの1つとして注目されている。 そこで本研究ではmyc遺伝子、特に、N-myc遺伝子発現制御機構に着目し、本遺伝子の5′上流域に存在する転写調節領域の特定と転写調節因子の同定と腫瘍の悪性度判定への応用を目的として研究を行なった。前年度までに、N-myc遺伝子発現制御領域を含むプラスミドをクローニングし、また、その塩基配列の決定を行なった。今年度は転写因子の同定を目的として、まず、このプラスミドを用いたN-myc遺伝子の転写調節部位の特定化を行なった。その結果、N-myc遺伝子発現細胞では転写活性を抑制ないし促進する領域が、N-myc遺伝子非発現細胞では促進する領域が見出されたことから、転写抑制因子と転写促進因子の存在が示唆された。特に、N-myc遺伝子発現細胞では、複数の転写因子がN-myc遺伝子発現に関与していると考えられた。計画年度内にこれら因子の同定には至らなかったが、今後、調節領域の更なる特定化を行うとともにこれら因子の同定とがん組織やがん細胞での発現様式を検討する必要があると考えている。
|