研究概要 |
本研究はmyc系がん遺伝子の発現制御の機構について解析を行ったものである。ヒトmyc系がん遺伝子産物(Mycタンパク)はc-Myc,N-Myc,L-Mycの3種が知られている。いずれのMycタンパクもMaxとヘテロダイマーを形成する事によりDNAの特定部位に結合し細胞増殖を制御していると考えられているが、その標的遺伝子やmyc遺伝子の発現制御機構についてはほとんど研究が進んでいない。また、myc系遺伝子は特定の腫瘍で増幅が起こっていることが知られており、神経芽腫ではN-myc遺伝子増幅度と悪性度との間に相関があることから、腫瘍マーカーの1つとして注目されている。 そこで本研究ではmyc遺伝子、特に、N-myc遺伝子の発現制御機構に着目し、本遺伝子の5'上流域に存在する転写調節領域の特定と転写調節因子の同定と腫瘍の悪性度判定への応用を目的として研究を行なった。平成4年度までに、N-myc遺伝子発現制御領域を含むプラスミドをクローニングし、塩基配列の決定を行ない、更に、転写因子のコンセンサス配列の検索を行い、E2Fなど数種の転写因子の結合部位を含んでいることを明らかにした。平成5年度は転写因子の同定を目的として、まず、N-myc遺伝子の転写調節部位の特定化を行った。その結果、N-myc遺伝子発現細胞では転写活性を抑制ないし促進する領域が、また、N-myc遺伝子非発現細胞では促進する領域が見出されたことから、転写抑制因子と転写促進因子の存在が示唆された。特にN-myc遺伝子発現細胞では、複数の転写因子がN-myc遺伝子発現に関与していると考えられた。計画年度内にこれら因子の同定には至らなかったが、今後、これら因子の同定と各種のがん組織やがん細胞での発現様式を検討する必要がある。
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