研究概要 |
臓器移植後に免疫寛容が成り立った動物の血清には他の同系宿主にドナー特異的免疫抑制を起こす効果があるといわれる。特に、他系の移植肝を受容したラット血清には強力な免疫抑制効果がある。それらの効果を示す本態は血清中のIgG分画にあり、抗MHC抗体であろうといわれてきた。そこで抗クラスIあるいはクラスII抗体、またそれらの抗体のなかでどのような特徴を有するものが有効かを調べた。種々の抗血清を作製し、テストグラフトとしての頚部異所性心移植の生着延長効果を調べた。これによると、リンパ球免疫で得られた抗血清は、肝移植ラット血清ほどの効果は示していないものの、若干の効果はそれぞれの血清で得られた。それぞれの抗血清投与による生着日数は、1.対照(血清無投与);7,7,7,8,8,9、2.肝移植ラット血清(1.0ml/rat、以下同様);11,14,16,100、3.抗クラスI血清;7,7,7,8,8,8、4.抗クラスII血清;7,7,9,9,10,15,16,であり、抗クラスI抗血清には生着延長効果はほとんど見られず、抗クラスII抗血清は免疫抑制効果を有することがわかった。しかしながら最も生着日数が延長したのは肝移植ラット血清を投与した群であり1例では100日を越える生着例も見られた。今回の実験のように手術時に抗血清を1回投与しただけで生着延長がみられることから、さらにラジオアイソトープ標識した抗ドナークラスII抗体を用い、宿主体内での動態を調べた。血中レベルは投与後指数関数的に低下し、半減期は約1日であった。その他、臓器毎の分布では投与1日後には移植心に最も多く放射活性が残存し(約5%)、脾、肝に1〜3%残存した。従って抗ドナークラスII抗体の作用機序としてはドナー臓器のクラスII分子のマスキングによることが考えられた。
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