研究概要 |
消化器癌の中でも極めて治療成績不良である胆嚢癌並びに胆管癌切除例の主病巣のホルマリン固定後パラフィン薄層切片を用い,各種分子生物学的パラメーターをABC法にと免疫組織化学的に染色し,以下の研究成果を得た. 1.胆嚢癌の癌遺伝子の発現:各種癌遺伝子の発現率はc-erbB-2 40.3%,c-myc 37.5%,K-ras 25.0%の順であって,c-erbB-2陽性例では陰性例に比し,深達度m・pmの早期癌が高率であったのに対し,c-myc陽性例では静脈浸潤(v)が,K-ras陽性例ではリンパ節転移(n)やリンパ管浸潤(ly)が有意に高率であった.特に深達度との関係では,c-erbB-2陽性率は早期癌では73.3%であったが,ss 38.9%.se・si 28.2%と深達度が進むにつれて低下が,K-ras陽性率はm・pm 13.3%,ss 16.7%,se・si 33.3%と逆に増加しており,胆嚢癌における多段階発癌の可能性が示唆された.また予後との関係ではK-ras陽性例では累積5生率11.1%と陰性例の41.7%に比し有意に不良であった.一方,癌抑制遺伝子p53の陽性率は13.9%と低率で,発現の有無の織学的進展度や予後との間には一定の傾向はなかったが,c-mycとp53の同時陽性例は全例siであって,切除後2年以内に死亡していた. 2.胆嚢癌・胆管癌の腫瘍増殖能:胆嚢癌ではAneuploid(55.6%)のものはDi-ploidに比し,ss以上の進行癌の頻度やn,ly,v,pnの陽性率が有意に高率であって,累積生存率にも有意差が認められた.また相対非治癒以上の再発死亡例の再発までの期間とPCNA標識率との間には有意の負の相関が認められ,PCNA標識率が20%未満の3例は3年以降に再発死亡していた.一方,胆管癌でも3年以上生存例は全例Diploidであったが,3年未満癌死例は42.9%がAneuploidであって,さらにPCNA標識率が30%以上のものには5年以上生存例は認められなかった. 3.胆嚢癌・胆管癌の細胞外マトリックス:細胞外マトリックスと再発様式との関係をみると,胆嚢癌ではtenascin陽性例では局所再発が,胆管癌ではlaminin陽性例では肝肺転移が,いずれも陰性例に比して有意に高率に認められた.また胆管癌ではtenascinの発現は胆管壁外浸潤の有無とも密接に関連していた.
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