これまで我々は膵癌術後の頑固な下痢の病態を明らかにするため、犬における腹腔神経叢及び上腸間膜神経叢切除に伴う消化管運動変化及びその薬物治療を研究してきた。その結果両神経叢切除により小腸で空腹期の内容物移送亢進と大腸の運動行進が認められ、抑制性外来神経の遮断あるいは抑制系の腸-腸反射の遮断が原因と考えられた。また薬物治療としては抗コリン剤及び節遮断剤が神経切除後の下痢に対して有効である可能性を示した。引続き最近増加傾向にある大腸癌において術後の消化管運動異常に着目し大腸癌手術時のリンパ節郭清に伴う下腸間膜動脈周囲の神経損傷と術後便通異常との関係を研究した。雑種成犬8頭にstrain gauge force transducer7個を大腸に等間隔に縫着し、空腹期から食後期にわたる大腸運動を記録し、その後下腸間膜神経叢を切除し切除前後の大腸運動を比較検討した。神経切除後には頻便、下痢軟便となる割合が増加した。収縮運動は収縮期の占める割合および収縮力が中部および遠位大腸で増加した。その治療として消化管運動機能改善剤であるマレイン酸トリメブチン(Trimebutine maloxone;TM)を神経切除犬に投与しその抑制効果を検討した。TM(0.01mg/kg/h)の点滴静注で運動が抑制され神経切除後の亢進した中部、遠位大腸の運動を抑制することにより治療に有用である可能性が示唆された。
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