当研究施設において切除された大腸癌切除標本の癌部および非癌部よりmRNAを抽出し、それぞれに対しラミニン(LN)A鎖、B1鎖、B2鎖およびラミニンレセプター(LBP32)のDNAプローブを用いてノーザンブロット法を行った。オートラジオグラフィーで検出されたmRNAはデンシトメーターで数値化し、同一検体におけるβ-actin mRNAに対する比をもって各mRNAの発現量とした。 1.LN mRNAの発現(対象17例) LN B1鎖のmRNAが全例の非癌部に検出されたが、癌部ではいずれのプローブによってもmRNAは検出されなかった。 2.LBP32 mRNAの発現(対象64例) LBP32 mRNAは全例の癌部および非癌部に検出され、以下の結果を得た。(1)LBP32 mRNAの発現量の平均値は、癌部が非癌部に比し有意に高値であった(p<0.005)。(2)LBP32 mRNAの発現量は、壁深達度においてss、al症例がpm以下の症例に比し有意に多く(p<0.05)、静脈侵襲陽性例と肝転移陽性例は陰性例に比べ多い傾向が認められた。(3)治癒切除がなされたDukes B症例(19例)とDukes C症例(25例)では、LBP32 mRNAの発現量と肝転移再発および肺転移再発との間に相関は認められなかった。 関連研究 本研究課題に関連し、matrix metalloproteinases(MMPs)とtissue inhibitor of metalloproteinases(TIMPs)のmRNAの発現を、上記64例を含む66例について検討した。MMP-9とTIMP-1およびTIMP-2のmRNA量は正の相関を示し、TIMP-1、TIMP-2のmRNA量はDukes分類と有意の関連を示した。特に肝転移例(Dukes D)はDukes A、Dukes B症例に比べTIMP-2の発現量が有意に多かった。 結論 大腸癌の肝転移再発の予知という点においては、ラミニン、ラミニンレセプターmRNAの定量に比べ、MMPs、TIMPs mRNAの定量がより有用となる可能性があると考えられた。
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