研究概要 |
前年度までに報告した脳死後心停止したドナーから移植を受けたイヌ6頭に加えて2頭の移植を行った。ともに移植には成功し、移植直後および1週間後の移植肺は十分な機能を有していた。現在までに8頭の脳死後心停止したイヌを用いた肺移植を行ったが、そのうち脳死状態の維持管理において輸液ポンプを用いた昇圧剤の投与を必要としたものは3頭であった。 脳死後心停止したドナーから移植を受けたイヌのうち、移植後1週以上生存したものは8頭中7頭であった。また、移植直後の20分間の対側肺動脈遮断試験では全例移植肺のみの機能で十分に耐えており、1週後の対側肺動脈遮断試験においても、気管支吻合部の縫合不全や肺炎といった合併症を併発しなかった5頭は試験に耐え、移植肺の機能が十分に維持されていることが示された。 対照としては、1.移植を行わず開胸操作のみを加え、対側肺動脈遮断を行った群(n=4),2.脳死状態にはせずに心拍動下から摘出した肺を移植した群(n=5),の2群を作成し、合併症発生頻度ならびに移植肺の機能について比較検討を行った。しかし脳死後心停止した肺を移植した群と対照とした2群との間には有意差を認めず、遜色のない良好な機能が温存されていることが判明した。 今回の実験におけるドナー肺摘出の条件として、心停止後20分放置した後に左肺の摘出を開始したが、この条件設定によるドナー肺が移植に供しえるだけの機能を保持していることも明らかになった。 以上より、脳死後心停止したドナー肺を用いた肺移植の可能性が示された。
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