大動脈--冠状動脈バイパス手術時のグラフト材料として、動脈硬化に対する抵抗性、遠隔期での高い開存率から、内胸動脈(ITA)及び胃大網動脈(GEA)が、臨床応用されている。しかし、これらの動脈グラフトの血液供給能、運動負荷時の血流量変化に関しては、殆んど研究されていないのが現状である。本研究では、これらを解明し、動脈グラフトの適応拡大の論拠とすることを目的とした。GEA特性の検討では、成犬22頭のGEAを剥離し、末梢端を開放したfree flowとして血流量を、更に、上行大動脈血流量(AoF)、腹腔動脈血流量(CAF)を測定した。その結果、各種薬剤負荷によりGEA血流量は増加を示したが、ノルエピネフリン追加投与時には、CAFの減少とGEA血流量の増加を示し、GEA末梢端開放に起因した血管抵抗差から、血流再分配が生じ、GEA血流量の著明な減少は示さなかった。ITA特性では、ITAの末梢を切離しない状態(in situ)時、free flow時の薬剤反応性を検討した。その結果、in situ状態では、ITA末梢側の血管収縮に伴う血管抵抗増加のためか、薬剤負荷の影響が明らかに出現した。一方、free flow測定では、血管径の変化が出現しにくいためか、血流量は不変であった。体外循環下の実験では、GEA及びITAグラフト長の種・個体差のため、さらに、手技的な困難さ、体外循環および術後管理の問題から、結果的に、グラフト血流量の十分な測定には至らなかった。以上の動物実験から、今回、後負荷を無視した最大流出量を中心に検討したが、GEAは、胃を灌流していた時と同様の血流特性を示し、ITAは、末梢端の開放により、本来とは異なる特性を示した。今後は、グラフト血流量を規定する一因子としての冠状動脈の薬剤反応性、冠血管抵抗、心筋酸素需要とグラフト材料との相互関係を解明することが肝要と考える。
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