研究概要 |
肺は常に外界と接し、また肺胞マクロファージを中心とする免疫担当細胞が豊富に存在する。そのため免疫系が賦活化されやすく拒絶反応も強いと考えられる。本年度の研究では、免疫組織染色とフローサイトメトリーを用いて正常ラットの肺及び肺胞洗浄液と他のリンパ臓器の接着分子を比較し、肺の特殊性を検討した。さらにMHCの全く異なる異所性心移植のモデルを用い、移植心に浸潤するリンパ球の接着分子を経時的に解析した。また抗LFA-1抗体と抗ICAM-1抗体投与による移植心の生着延長効果も検討した。 [結果]1.肺胞洗浄液及び肺実質中のT細胞のLFA-1の発現程度は脾臓やリンパ節のリンパ球に比べて高度であった。2.免疫組織染色では肺実質中に腎臓,心臓,肝臓に比べてICAM-1陽性細胞が多く存在していた。3.肺実質及び肺胞洗浄液由来の細胞は、ConAやSEBなどのT細胞マイトゲンに対し脾臓のリンパ球よりも強く反応した。以上より肺胞洗浄液,肺実質中のリンパ球は正常な状態でもLFA-1を強く発現しており機能的にも活性化された状態にあること、また他の実質臓器に比べて肺にはICAM-1陽性細胞が多いことが明らかとなった。4.心移植モデルで移植心に浸潤するリンパ球を解析すると、経時的にT細胞中のLFA-1,ICAM-1抗原が増加し、接着分子が拒絶の進行とともに増強することが明らかとなった。そこで抗LFA-1抗体と抗ICAM-1抗体をレシピエントラットに移植当日から1mg/kg/日で5日間投与したが生着延長は認められなかった。今後は肺移植で心臓移植と同様の解析を行う予定である。また心移植で抗体治療が有効でなかったことから、より拒絶されにくい近交系の組み合わせや抗体の投与法を工夫するなどして検討したい。
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