研究概要 |
開心術に用いられる心筋保護法に際し、虚血再灌流障害を可及的に防御し、虚血心筋のviabilityを良好に保つべく、有効な心筋保護液作成(投与薬剤,投与量)について実験(in vivo、ex vivo)を行った。 1.(1)Wister系ラットの摘出心にisolated working rat heartモデルを用い常温下心停止実験で、ST. Thomas液を対照とした心筋保護液中のCl^-をlactobionateで置換した。35分間の虚血後の大動脈流量および心拍出量の回復率は、St. Thomas液中のCl^-のうち40mM/Lをlactobionateで置換した群が有意に良好であり、LPK遊出量は低値を示した。この結果より再灌流後のCl^-の細胞内への流入に起因する細胞浮腫を防御し、有効な心筋保護効果を示すことが示唆された。(2)虚血心筋を再灌流すると細胞外Ca^<++>が細胞内へ過剰流入し、再灌流障害を示すことが知られている。就中、Na^+-Ca^<++>交換機構は細胞内外いずれの方向にも作動し、虚血再灌流時に細胞内へCa^<++>過剰流入経路となる可能性が高い。一方Ni^<++>がNa^+-Ca^<++>交換機構に拮抗することが明らかにされており、心筋保護液にNi^<++>を添加した際の心筋保護効果について検討した。常温下35分間の虚血後の大動脈流量回復率は、Ni^<++>100nM/L添加群が0μM、1μMに比し有意な上昇が認められ、CPK遊出量も同群で有意に低値を示し、有効な心筋保護効果を示した。2.雑種成犬を用い、癌床に準じた対外循環心筋保護モデルを作成し、虚血再灌流障害における心筋Ca^<++>代謝を組織細胞化学的手段を用いて観察し、フリーラジカル消去剤(SOD、カタラーゼ)の長時間心筋保護(180分)の有用性について検討した。ラジカル消去剤投与群では、ミトコンドリア内Ca^<++>ATPase活性は対照群に比し低下を示し、TBA(Thio barbituric acid)の増加、α-TOC(α-tocophorol)消費の抑制など細胞内脂質の過酸化を阻止する所見が認められ、虚血後の再灌流障害に対する有用性が示唆された。
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