体重20kg前後の雑種成犬をisolated in-situ hearlモデルとし、左前下行枝の急性閉塞に対する外科的血行再建術中の心筋保護法としての逆行性持続 warm blood cardioplegia の効果を検討した。実験群は左前下行枝閉塞60分後に冷却晶質性心停止液を用いた心筋保護法を大動脈基部より順行性に行ったI群(n=10)、同液を冠静脈洞より逆行性に注入したII群(n=11)およびwarm blood cardioplegia を持続的に逆行性に注入したIII群(n=10)である。60分間の心停止後左前下行枝の閉塞を解除して再潅流したが、このときI群2頭、II群3頭およびIII群2頭がworking modeを維持しえなかった。これら死亡例を除いた各群8頭での心機能の検討では、再潅流時の心拍数回復率、大動脈流量およびmaximum dp/dt には3群間で有意差を認めなかった。超音波クリスタルを用いて行った局所心機能の検討でも左前下行枝領域のsegment shorteningの回復率に3群間で有意差はなかった。心筋好気性代謝の指標としての心筋組織pHは左前下行枝領域において心停止中III群が他の2群と比較して有意に高かったが、再潅流時には3群間で有意差を認めなった。右室自由壁におけるIII群での心停止中の心筋組織pHはI、II群と差がなく、逆行性持続 warm blood cardioplegia 投与時にこの領域で嫌気性代謝に傾いていることが示唆された。 以上の成績から60分間の左前下行枝閉塞後の逆行性持続 warm blood cardioplegia は順行性または逆行性の冷却晶質性心筋保護法と比較してglobalおよび局所左室機能の有意な改善を示さず、また右室自由壁の嫌気性代謝をもたらすことから、その有効性には限界があることが示唆された。
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