研究概要 |
今年度は主として移植脳腫瘍ラットにおいてhematoporphyrin derivative(HpD,伊藤ハム)の投与後24,48,72時間でアルゴンレーザー照射を行ない、腫瘍内でのHpDの動態を検索した。多少当初の目標とは異なるところもあるが、得られた結果は以下のごとくである。移植腫瘍ラットの実験ではHpD15mg/kg静注後48時間でも72時間でも同程度に、脳腫瘍および皮下腫瘍共に照射部位に一致して約4mmの深さで腫瘍壊死が見られた。また、どちらのソフテックス撮影でも照射部位に一致して腫瘍血管の造影が不良で血流障害が見られた。これは、腫瘍組織あるいは腫瘍血管に取り込まれたHpDが72時間後もかなりの程度残存していることを示している。HpDが腫瘍や腫瘍血管のどの部に取り込まれるかは明らかではないが、組織からの消失が遅いことはやはりHpDが大部分細胞内に存在することを支持するものと思われる。光化学療法の作用機序に関しては、照射24時間後すでに腫瘍細胞の変性および壊死と血流障害が同時に見られることから、腫瘍細胞に対する作用と栄養血管に対する作用の両者が始めから関与していることが推定された。今年度は本治療法の適応のある悪性神経膠腫症例が少なく、治療効果に関する十分な臨床的および病理学的検討は可能でなかった。照射手技については、腫瘍を可能な限り摘除して浸潤部分を少なくし、アルゴンレーザー514.5nmの波長光を約3-5cmの距離から摘出腔をまんべんなくわずかにオーバーラップするように、径20mmの範囲ずつ0.5Wで10-15分照射するのが現在のところ適切と考えられた。レーザー照射装置は電源プラグを工夫し、また冷却水用の排水機構を整えて手術室で使用可能とした。照射部位周囲の熱発生の程度については、2度以上の上昇は見られなかった。今後、引き続き実験での検討を行ない、臨床症例を増して治療効果の改善に結び付けたい。
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