研究概要 |
近年,頭蓋内主幹動脈の血流が経皮・経頭蓋的に非侵襲的に測定できる経頭蓋超音波ドプラ(TCD)が開発され,脳血管攣縮や急性頭蓋内圧亢進時の脳循環動態の評価手段として広く応用されつつある。しかし,TCDは血管径や血流を直接に観察できないために定量性に欠け,実際の血流量に関しては不明な点も多い。そこで本研究は,脳血管攣縮や頭蓋内圧変動による脳潅流圧変化が脳循環動態に及ぼす影響について臨床例や動物実験・人工血管モデル実験で観察し,TCDの定量性や信頼性を向上させることを目的とする。今回,遠位側加圧による後負荷で潅流圧を変化できる人工血管モデルを作製し,このモデルに拍動流を流しさらに後負荷を加えたさいの流速をTCDで測定し,潅流圧と脈波形,pulsatility index(P.I.)および流量との関係を求めた。その結果,1.収縮期、拡張期ともに流速と潅流圧は正の相関を示した。さらに,2.潅流圧の低下に伴う流速の低下の割合は拡張期の方が収縮期より大きい傾向を示した。このことから,3.潅流圧の低下に伴いフローパターンは急峻化し,sharp wave,systolic flow,to-and-froの順に変化した。そして,4.systolic flow,to-and-froの出現する時期はそれぞれ拡張期潅流圧,平均潅流圧の陰転する時期にほぼ一致した。また,5.末梢抵抗を反映するP.I.は各脈波形段階で有意に増加した。さらに,6.単位時間当たりの流量は各脈波形の段階毎に有意に減少し,to-and-froの段階では無負荷の時と比べ約90%の減少を示した。 to-and-froパターンは頭蓋内圧亢進の極限状態である脳死患者で認められることがあり,以上の結果からTCDで観察されるto-and-froパターンは脳血流が有効レベルに達していない状態を反映すると推測された。
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