本研究グループは平成4年度から5年度にかけてパーキンソン病に対する頸部交感神経節の脳内移植に関する基礎的臨床的研究を行った。平成4年度は交感神経節を組織培養して人工操作を加えることにより脳内移植生着率の影響を形態的、行動的に観察した。培養2、4、6週後に6-OHDAで一側中脳黒質破壊ラット線条体内に交感神経節を移植すると、2、4週培養群でapomorphineによる回転行動は減少し、移植された細胞の生着も良好であった。これに対し、6週間培養群では回転行動は減少せず、細胞の生着も不良であった。つまり交感神経節は4週間まで培養して、人工操作を加えても移植可能であることが明らかとなった。平成5年度は、さらに培養液中にサイトカインの一種であるInterleukin(IL)を添加し神経成長因子(NGF)を誘導せしめて生着率が高まるかどうかを検討した。まず培養液中にヒトrecombinant IL-1βを添加すると、NGF濃度は非添加群の約7倍に増加し、神経節から著明な突起伸展が観察された。この突起伸展は抗NGF抗体の処置により抑制された。次にIL-1処置交感神経節を脳内に移植し、生着細胞の数、その細胞体の面積を無処置群との間で比較検討した。IL-1処置群は無処置群に比し生着細胞の数が約2倍と多く、また細胞体の面積も有意に大きかった。以上の結果は交感神経節を2〜4週間治療しIL-1にてNGFを誘導することにより神経細胞を強化させ移植することが可能であることを示している。 本移植法の臨床応用に関しては、1991年以来35例の本態性パーキンソン病患者に臨床応用し、約1/3の症例では術後1-dopaの服用が不要となった。しかし1/3の症例には無効であった。このような無効例を少なくするため、上記基礎的研究が重要で、今後NGFやIL-1による前処置を行なうことで生着率が高まれば、臨床成績も向上するものと期待される。
|