研究課題/領域番号 |
04670873
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研究機関 | 慶応義塾大学 |
研究代表者 |
川村 光毅 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (40048286)
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研究分担者 |
湯浅 茂樹 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70127596)
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キーワード | 神経移植 / 神経修復 / 不死化細胞株 / 遺伝子導入 / 温度感受性発癌遺伝子 / 神経分化 / 神経栄養因子 / 細胞移動 |
研究概要 |
マウス胎仔間脳の初代培養細胞に、レトロウイルスベクターを用いて発癌遺伝子の一つSV40T抗原遺伝子の温度感受性変異体tsA58を導入した。そして、形成されたコロニーから不死化細胞株V1を確立した。この細胞株は32℃の培養条件ではSV40T抗原を発現し活発に増殖した。39℃ではSV40T抗原の発現が抑制され、一部の細胞はニューロンへの分化のマーカーであるニューロフィラメント蛋白(NF)を発現した。さらに、39℃の培養条件で神経成長因子(NGF)を加えるとNF免疫陽性細胞が増加した。 このV1細胞をカルボシアニン系蛍光色素DiIで標識して成体マウスの間脳内に移植した。移植後2週間から3ケ月の間にマウスを潅流固定し、移植部位の凍結切片標本を作成した。そして共焦点レーザー走査顕微鏡を用いてDiIで標識された移植細胞の分布を観察するとともに、同一部位におけるニューロンの分化マーカーの発現について免疫組織化学的に観察した。移植3ケ月後には、生着した移植細胞は集団を形成し、一部の細胞は突起を伸展していた。これらの突起にはNFが発現しており、移植細胞はニューロンに分化して、軸索を伸展していることが明らかになった。 移植細胞の分化過程を観察するために、移植して2週間後の移植部位を免疫組織化学的に観察した。DiIで標識された移植細胞において、細胞体にMAP-2蛋白の発現が認められ、伸展した突起にはNFの発現が認められた。また、移植細胞には低親和性NGF受容体の発現が認められた。抗GFAP抗体により免疫染色をおこない、アストログリアの分布について検討すると、移植細胞に接した宿主組織内にはGFAP免疫陽性細胞の集団が認められたが、移植細胞にはGFAPの発現は認められなかった。 以上の結果より、不死化神経細胞株V1は成体宿主脳内で少なくともその一部はニューロンに分化していることが明らかになった。また、脳以外の組織に移植してもニューロンへの分化が認められなかったことから、この分化誘導機構には、宿主体温が39℃であることによるSV40T抗原の不活性化と、宿主脳組織由来の神経栄養因子群による作用が考えられる。 さらに、V1細胞を小脳内に移植すると、移植細胞の一部は皮質内へ移動し、プルキンエ細胞層に近接して配列した。これらの細胞の多くはBergmann gliaの突起に接しており、移動したV1細胞の宿主脳内における配列にはグリアの突起との相互作用が関与することが推測される。
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