幼若神経細胞の移植により、損傷を受けた中枢神経系を再構築するための基礎的条件を検討するため、成体ならびに新生マウス脳内へ移植された不死化神経細胞株の移動、文化、宿主神経構築への統合に関する形態学的解析を行なった。移植に用いた不死化細胞株は、マウス間脳原基の初代培養細胞にレトロウイルスベクターを用いて温度感受性発癌遺伝子taA58を導入することにより作製した。この細胞株は32℃では活発に増殖し未分化な性質を示すが、39℃では増殖速度が低下し、ニューロン或いはグリアへの分化が促進され、遺伝的に均一な幼若神経細胞のモデルとしての性質を示す。この細胞をcarbocyanine系蛍光色素DiIで標識し、定位的に小脳および海馬に移植して、一定期間後、共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて、宿主-移植細胞間の相互作用について検討した。この細胞を新生マウス脳内に移植した場合、海馬では歯状回層構造に対応した配列を示し、アストログリアの分布と密接な相関を示した。また、小脳では、移植細胞はプルキンエ細胞と配列を示した。また、内顆粒層に分布したものは、顆粒細胞ニューロン様の形態を示した。成体マウス脳内にV1細胞を移植した場合、小脳では、新生時期と同様にプルキンエ細胞に対応した層状配列、Bergmannglia様の分化を示したが、海馬では特定の分布配列様式を示さなかった。以上の結果から発達期脳内に移植された不死化細胞株V1は宿主発生過程の細胞分化、移動、層形成機構に統合されることが示唆された。これに対し、宿主成体脳では、部位によって移植細胞を神経構築内に統合する能力が存続する部位と、失われている部位があることが明らかになった。
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