神経膠腫の増殖調節機構を明らかにする目的で、各種樹立神経膠腫細胞株を用いて細胞生物学的研究を行った。血清も外因性細胞成長因子も必要とせず、長期継代可能な、ヒト神経膠腫由来SK-MG-1細胞系を樹立した。SK-MG-1細胞は無添加のMCDB-104基礎培養液だけで、血清添加時とほぼ同速度で増殖し、現在200PDLを越え継代中である。 コンフルエント期のSK-MG-1細胞順化培養液中には各種成長因子が存在すると予想されたため、その解析を進め次のことが明らかとなった。 (1)既知の成長因子として、TGFβが大量に存在するが、basic FGFやacidic FGFは存在しない。新しい型のPDGFの存在が明らかとなった。PDGFのA鎖に対する特異抗体と交叉し(PDGFのB鎖抗体とは交叉しない)、還元条件下での分子量は27-30KDaで、AA(large form)ホモダイマーと考えられる。(2)ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(樹立株)の増殖促進因子(G-ECGF)が存在する。この活性は、順化培養液中に多く認め、細胞溶解物にはごく少量である(分泌型)。SK-MG-1細胞対数増殖期の培養液中には、この活性はない。G-ECGFはヘパリンに結合せず、bFGFやaFGFの抗体と交叉しないことから、新規のECGFと考えられる。この因子の精製を行い、177kDaサブユニットから成る、分子量数万のペプチドであった。現在、アミノ酸配列を調査中である。(3)SK-MG-1細胞自身の増殖を非致死的に抑制する因子が存在する。外来性TGFβにはこの作用はない。 これらの諸因子が神経膠腫組織内においてautocrineあるいはparacrine増殖の制御機構に関与することが想定されるため、この細胞生物学的研究を継続してゆく予定である。
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