BDNFはin vitroでventral midbrain由来のdorpaminergic neuronの生存を直接促進することが報告されており、in vivo実験系で猿パーキンソン病モデルにおけるBDNFの効果を検討した。成熟ニホンザルにmethyl-4-phenyl-1、2、3、6-tetrahydropyridine(MPTP)を静脈内投与することによってパーキンソン病モデルを作製した。 体重約7Kgの日本ザルを以下のような3群に分けた。 groupI:無処置(n=3) groupII(n=3):5mg×2回のMPTP静脈内投与+BDNF10μgを含むCHO細胞上清液10mlを脳室内投与 groupIII(n=3):5mg×2回のMPTP静脈内投与+BDNFを含まないCHO細胞上清液10mlを脳室内投与 groupIは、観察期間中、全く神経脱落症状が認められずMonkey Parkinsonian Rating scaleは0点であった。group IIは、MPTP処置後第一週はパーキンソン徴候を認めなかったが、第二週には、寡動等の軽度のパーキンソン徴候を認めた。group I II(non-BDNF group)は、MPTP処置後第一週の後半より寡動、強直、振頸等の軽度のパーキンソン徴候が出現し、第二週には、神経症状の悪化が認められた。第二週には、無効となり、自力で食物摂取が不可能となったため、胃内チューブを挿入し、水分、流動食の補給を行なった。Rating scale上BDNF投与群、非投与群間には統計学的にも有意な行動上の差異が認められた。重度のパーキンソン症状を示した群では組織学的検討で黒質ドーパミン細胞の著明な脱落が観察され、臨床症状と組織学的所見には高い相関が認められた。組織標本上で細胞体が250μm^2以上の大型の神経細胞はBDNF投与群で有意に保存されていることが明らかとなった。したがって、MPTP投与による猿パーキンソン病モデルに対し、BDNFの脳室内投与が効果を持つことが神経学的徴候からもまた組織学的にも確認された。
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