研究概要 |
本研究の目的は、臨床的に腕神経叢の引き抜き損傷に至らないような弱い牽引刺激によりシビレや痛みが生じる神経易損性の原因を実験的に解明することにあった。動物実験より腕神経叢は、近傍に可動性の大きい肩甲帯が存在し、さらに周囲組織は正中神経と比べ粗な結合組織が豊富であることにより、上肢の牽引により他の末梢神経よりも大きく滑走することが分かった。又、神経内血流は、神経上膜下組織の血流が神経束内血流に比べて有意に大きく減少することが確認された。この現象は負荷の解除すると可逆的な反応であった。腕神経叢の牽引時におけるSEP,MEPの潜時変化は、従来の報告よりも軽微な牽引負荷で若干の伝導障害を引き起こすような変化が生じ、しかも短時間では回復しない程度に障害された。軸索流については、延び率と軸索流の変化を測定するため坐骨神経を用いたが、牽引負荷により軸索流の減少が確認された。又、形態的には、急性期における神経束内のaxon、myelinに明らかな異常は認められなかったが、間歇的に腕神経叢に2週間の牽引を繰り返すと腕神経叢の神経上膜下組織に瘢痕、癒着及び軽度の炎症が出現した。 以上より、上肢が牽引を受けると、腕神経叢は容易に伸張し、血流低下による虚血を生じやすく、電位的潜時は延長する。またこれら微小血行動態の変化は軸索流の減少にも影響する。血流、電位の減少は、機能的には可逆的で変化あるが、形態的には慢性的に刺激を受け続けると同部の神経内のaxon,myelinの変化よりもむしろ神経上膜組織に変化が生じやすと考えられた。これらの変化がTriggerとなり、痛みやシビレを生じさせる要因となることが考えられた。
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