末梢神経の修復において、sural nerve等を用いた自家神経移植では、修復を必要とする神経が太い場合や腕神経叢損傷に対する修復時などに大量の移植神経を必要とする場合などには十分量の移植片が得られず、また足関節および足底外側部の知覚障害を引き起こす。同種移植が可能となれば、移植に必要な太さおよび量の神経移植片が得られる。しかし免疫反応により神経再生がさまたげられるため、移植片の抗原性を低下させて拒絶反応を低減し、基底膜などの軸索再生に快適な環境を残す処理方法の探求が求められている。われわれは移植神経にエタノールによる化学処理を加えることで抗原性をもつ蛋白成分などを変性させ、神経再生に必要とされるラミニンをもつ基底膜を温存する方法の開発研究を開始し、家兎において比較的良好な神経再生を認めた。しかし、その再生状態は自家移植に及ばず、今後処理方法の改善がのぞまれた。本実験ではエタノール処理方法に改善を加え、各処理段階での処理神経を組織学的・生化学的に検索した。最初の50%〜100%エタノールまで各4時間ずつ段階的に処理を加えると処理神経内の基底膜上のラミニンの免疫組織化学による反応は減少し、形態学的にも膜の硬化を認め、移植後の軸索再生も満足すべきものではなかった。そこで処理濃度の上限を90%とし、処理を2回繰り返すことで処理不足を補う方法で改善を試み、処理神経内には残査が残るもののラミニンを十分に残した基底膜を温存することができた。またラット坐骨神経を用いた移植において移植後3カ月で腓腹筋より良好な活動電位を導出し、組織学的にも良好な軸索再生を得た。
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