研究概要 |
圧迫性脊髄症ならびに神経根症の脊髄内病変として,脊髄前角細胞の機能的変化が考えられ,これが成因の一つと考えられる。前角細胞の機能障害の定量化は確立されていないので,脊髄圧迫モデルを用い,前角細胞を標識する蛍光色素を利用し,蛍光量を測定して前角細胞の機能的変化の定量化を試みた。実験モデルは,ウィスター系ラットに重錘による急性圧迫を加えたものを急性脊髄モデル,TWYマウスを慢性脊髄圧迫モデル,さらに第6頸髄神経根切断を神経根症モデルとした。 逆行性軸索輸送により前角細胞を標識する色素として,Bisbenzimide(BB)を用い、対照群および圧迫群について標識細胞の蛍光量を顕微測光した結果,測定値は個体間のばらつきが大きく定量的評価が困難であった。そこで前角細胞の神経伝達物質であるアセチルコリンの生合成酵素であるコリンアセチル基転移酵素(CAT)を蛍光抗体法により標識し,顕微測光法により定量化することにした。 急性脊髄圧迫モデルの経果:圧迫部と隣接髄節部のCAT標識細胞の経時的変化を顕微測光で測定した。蛍光量は圧迫部では変化を認めなかったが,隣接髄節部が漸増するとともに脊髄麻痺は回復し,前角細胞可逆性変化の機能回復と運動障害の機能回復との関連が考えられた。 慢性脊髄圧迫モデルの結果:高度脊髄圧迫部でCAT標識細胞の減少と蛍光量の低下,さらに病理組織変化を認めない軽度脊髄圧迫群でも蛍光量の若干の低下があり,CATの定量化は前角細胞の機能障害を反映する可能性があることが示唆された。 今後は.圧迫程度の差異によるCATの経時的変化について,組織学的変化ならびに運動機能の推移との関連から解析し,脊髄前角細胞の機能障害を定量的に評価することを試みる。
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