研究概要 |
圧迫性脊髄症の成因として、圧迫による前角細胞の機能的変化が考えられる。そこで、慢性圧迫モデルとしてtwyマウス、急性圧迫モデルとして重錘圧迫損傷モデルを用いて、脊髄内ChATの変化を蛍光抗体法および顕微蛍光測光法を用いて定量的に分析し、さらに病理組織学的検討を加えた。 慢性圧迫モデルの結果:対象は4,8,16,24週齢のtwyマウス各3匹と同週齢のICRコントロールマウス4匹を用いた。須藤らに準じて上位頸髄の免疫組織染色および顕微蛍光測光を行った。twyマウスの上位頸髄部は、週齢と共に圧迫の程度は強くなる傾向がみられた。前角前内側核のChAT量を示す蛍光強度は、圧迫のみられなかったI群の蛍光平均値を100とすると、軽度圧迫を認めたII群は104.6±19.6(平均値±S.D.)とI群との有意差はみられなかったが、測定値に大きなばらつきがみられた。また重度圧迫のIII群は76.4±2.1と有意に低下していた(p<0.05)。以上より、軽度圧迫では前角細胞の機能は、個々の細胞により亢進するもの、低下するもの様々であるが、圧迫進行例では前角細胞の機能はいずれも低下するものと考えられる。急性圧迫モデルの結果:重錘圧迫法(20g,5分間)によりC6髄節レベルで損傷モデルを作成した。損傷後の運動機能障害は、2日後に最も強く前枝に優位にみられたが、4週後にはほぼ完全に回復した。病理組織学的には、圧迫部で損傷2日後灰白質中心部に出血がみられ、4週後には前角細胞の脱落、グリア細胞の増殖がみられたが、白質にはよく保たれていた。また頭尾側に隣接する髄節では明かな変化は認めなかった。前角細胞の集中する前角腹外側部の蛍光値の経時的変化は、圧迫部では損傷2日後約50%に低下しその後ほとんど回復はみられなかった。隣接する髄節では損傷後一過性に約60-70%まで低下するが、1週以降115‐120%と高値を示し、麻痺の回復を考慮すると損傷部の不可逆的変化を、隣接する髄節で代償する可能性が示唆された。
|