α_2受容体刺激薬であるクロニジンをクモ膜下へ投与すると鎮痛作用が発現する。α_2受容体刺激薬がノルエピネルリンの分泌を抑えることが発現の機序とされているが、それが事実だとするとノルエピネルリンの作用を阻止するα受容体遮断薬も脊髄上で何らかの薬理作用を有することが推測される。 〈目的〉イヌのクモ膜下にα受容体遮断薬であるフェントラミンを投与し交感神経活動に与える影響について調べた。 〈対象と方法〉体重10Kgの成犬6頭を全身麻酔下に人工呼吸を行い、クモ膜下腔へカテーテルを留置した。右腋下動脈へカニュレーションし動脈圧測定用とした。右大腿動脈を露出し、電磁血流計プローブを装着し、後肢の足底部へ深部温計用皮膚温プローブを装置した。 3頭ではリドカイン30mg/0.1mlを投与し、血圧、心拍数、血流、皮膚温の変化を調べた。リドカインの効果が消失してから30分後にフェントラミン1mg/0.1mlを投与した。残りの3頭は薬液の投与順を逆にし、同様の研究を行った。1頭ではフェントラミン1mgを静注し全身投与の場合の効果をみた。 〈結果〉1.両剤とも大腿動脈血流量は投与後3分で有意に上昇し、その程度に両剤間の差はなかった。2.後肢の皮膚温はリドカインで5分後、フェントラミンで3分後に有意に上昇した。上昇は60〜90分間持続した。3.フェントラミン1mgの静脈内投与では血圧低下以外に変化はみられなかった。 〈考察〉クモ膜下腔へフェントラミンを投与するとリドカイン投与時と同じ効果がみられた。フェントラミンはα_1、α_2の両受容体の遮断効果を有するが、今回の結果はα_1受容体の遮断効果によると思われ、脊髄表面にα_1受容体が存在することを示唆する。α_1受容体特異性を有する他のα遮断薬で疼痛域値の変化に与える影響についても検討が必要である。
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