家兎の摘出肺潅流モデルを用いて、吸入麻酔薬イソフルレンの低酸素性肺血管収縮反応(HPV)抑制作用およびその作用機序について検討した。家兎の肺動脈潅流圧は低酸素ガス換気により10.4±1.7mmHg(mean±SE、n=6)上昇するが、あらかじめイソフルレンを吸入しておくとこの反応が0.5、1.0、2.0MACでそれぞれ44.8±6.9、62.9±7.2、81.1±4.4%抑制される。吸入濃度と抑制率の間には有意な用量・反応関係が認められ、ED_<50>は0.65±0.12MACであった。シクロオキシゲナーゼ阻害剤であるインドメタシンで前処置を行うとHPV反応自体は7.5±0.9mmHgと減弱した。イソフルレン0.5、1.0、2.0MACの抑制率はそれぞれ23.3±7.4、51.9±5.7、78.8±2.4%で有意な用量・反応関係が認められ、ED_<50>は0.96±0.11MACで無処置群のそれに比較して有意に大きくなった。従来の犬やラットの研究ではアラキドン酸のシクロオキシゲナーゼ代謝産物を抑制するとHPV反応を増大するとされていたが、今回の結果はこれに相反するものであった。インドメタシン処置の有効性はトロンボキサンB_2およびプロスタサイクリンの定量により確認しているので、このインドメタシンによるHPV抑制作用は家兎に特異的な現象と考えて良いかもしれない。またイソフルレンによるHPV抑制のED_<50>がインドメタシン前処置により増大したことは、イソフルレンのHPV抑制作用にはアラキドン酸のシクロオキシゲナーゼ代謝産物の関与を示唆するものである。これまでの研究からHPVの発現過程において、血管内皮細胞のリン脂質からフォスフォリパーゼA_2によって産生されるアラキドン酸の代謝産物がHPV反応のメデイエータないしは修飾因子として作用していることは明らかなので、脂質溶解性の高い吸入麻酔薬がシクロオキシゲナーゼ系を介してHPVを抑制するという今回の結果は十分理解されるものと考える。しかし、さらに詳細な機序については今後の研究が必要である。
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